世界の果てで、呟いてみるひとり。

鳴原あきらの過去・現在・未来

「巌窟王」最終章および概観。


終わりましたね、巌窟王
メルセデス、そしてエデ。二人とも、なんていい面の皮。
そしてアルベールも、最後ユージェニーと再会(抱きしめないまでも顔合わせぐらいは)するのかと思いきや、それもしないのな。パーティはやらなくてもいいですが。だから男女関係がかすんでるアニメだってのよ(例外はモレル&ヴァランティーヌですが、彼女だって泣きながらフランツを越えてきたんだしな)。
しかも、相変わらずフェルナン×エドモン。
エドモンとフェルナンの二人の墓は並んでたってるわ、渚の回想シーンで、わざわざエドモンがフェルナンの肩に手をかけてるわ。しかも、エドモンからメルセデスへの熱烈なラブレターにその場面を重ねてるんですよ。痛烈。あのユージェニー・アルベール・フランツでやった場面をですよ。たぶんエドモンはこうフッたんだね、「やっぱりメルセデスの方が好きだ」。で、フェルナンが「裏切り者ー!」。あああああああ。あげくメルセデスはひとりぼっちで墓守かい。ああ、いい面の(以下略)
エデは自分の星に帰って、これから女王*1としてなんらかの仕事をしていくのでしょうが、だからといって、大使秘書補佐官*2としてやってくるアルベールとロマンスが発生する訳でもなさそうで。伯爵の元部下達は彼女にくっついており、バティスタンはエデに忠実っぽいですが、ベルッチオはむしろ伯爵に薔薇をたむける男ですから……だからいい面(略)
ユージェニーは己の才能で成功したし、幼なじみと再会できる訳ですから、まあいいのか……いいのか?
ところで、アルベールが家屋敷の権利放棄の時にしたサインですが……なんて書いてました?(読めなかった)


以前も書きましたが、原作が、ナポレオンの没落から王政復古の激動のパリを舞台にし、それをドラマを動かすポイントにしていたのに対し、このアニメは、主人公のアルベールを巡る男性関係が主軸になっていました。
以下、それぞれのキャラを概観しつつ振り返ってみたいと思います。


・伯爵:
彼とアルベールは、プロダクションブック等から推しはかるに、原画の松原さんの推奨カップリングであり、バナーにもなっている訳ですが、むしろこれは「父と息子」的な関係でした。伯爵は、己の復讐のためにアルベールに近づいた訳で、二人の間に多少の歪みはありますが、アルベールが素直で裏表のない性格のため、あんまり妖しさは出ず。まあ、あのフェルナンを父にもったら、伯爵の方がよほど魅力的な父親像である訳で……♂♂度という意味では低かったです。でもアルベールのキスで伯爵の呪いはとけたのよね。
・アルベール:
あちこちでアホベールと呼ばれていたらしく、公式インタビューでまで中田譲治にからかわれていた彼ですが。
15歳という年齢、お育ちの良さ、友人たちにも恵まれている、親も表面上は不仲でない*3、という環境を考えれば、彼が素直すぎ、また思慮が足りないのも当たり前でしょう。嫌みのない、ごく普通の少年代表として描かれていた気がします。私も単純な人間なので、普通に感情移入できました。特筆すべきは、彼のタイプが「ペッポ」であったことだと思います。ペッポの正体が女装美少年だとわかった時、ちょっと驚きはしたものの、だからといって軽蔑したり遠ざけたりすることが一度もなかったことは、好感度大です。むしろアルベールは最初から最後までペッポを異性として見ていた、というのが正しいかもしれませんが。ユージェニーがいなかったら本当に籠絡されていたような気が……。
・ペッポ:
今回の♂♂関係の中で、しっかり生き延びた一番のしたたか者。アルベールへの愛は本物で、ユージェニーとアルベールが盛り上がってくれば失望。育ての親であるルイジ・ヴァンパを裏切れなかったとスパイ行為の数々をアルベールにわび、ユージェニーとの仲をしおらしく応援し。そして失恋もアピールして同情票集めまくり。やるなー。しかもルナには戻らず、地球でモデルの仕事をしてるそうですよ……ってまだアルベールを狙ってるんじゃあるまいな? 「生まれ変わる」ってそのキャッチコピーは、もしかして手術でもしちゃいましたか?的な気持ちにも(ところで原作でペッポが女装美少年なのは、ユージェニーの男装の麗人ぷりと対比させてるのかな?)。
・フランツ:
アルベールへの愛を貫く、ホンモノさん中のホンモノ。最初は好きでしたが、そのステレオタイプっぷりには、たびたびザザーッとひきました。たしかにアルベールへの尽くしっぷり、その死に様と遺書は、それこそ絵に描いたような「良い♂♂」でした。でもね、自分の婚約者にはあれだけ冷たい仕打ちをする男ですよ。あと、他の女にとられるぐらいならユージェニーがいいや、と彼女とアルベールとの仲が壊れかけた頃にあわてて応援するような男ですよ。わかりやすかったとはいえ、見ていてちと不愉快でもあったんだ。
彼は、アルベールにとっては世話を焼く親的な存在であり(台詞でもハッキリ「おまえはオレの母親か!」とでてくる訳で)、むしろメルセデスよりもアルベールの母の役割をになってきた訳ですが、つまりそれは恋の対象としては見てもらえない、タイプではない、ということになります。この片思いは決定的で、そして絶望的です。いくら尽くしても自分は恋人としてみてはもらえない、ぽっと出のペッポよりも劣っている訳で。
フランツは死亡フラグがあまりにも沢山ありましたが、私が思う最大の死亡フラグは、巌窟王の秘密をノワルティエ氏から聞き出してパリに帰ってきた時、つまりひどい目に遭ったアルベールが泣きながら胸にとびこんできた時に、フランツがアルベールを「抱きしめなかった」ことです。
おまえ、アルベールの「友達」じゃないよ!
別にやましい場面でもないのに抱きしめられないということは、つまりそれだけフランツがやましい心を持っている証拠な訳ですが、そうじゃねーだろー!と。アルベールが自分をどう見ていようと、そこはいたわる場面だろ。それができないおまえは……「ああ、死ぬんだな」と。
ホンモノとして突出したフランツという存在自体は貴重なものだったので、犠牲となって殺されてしまったのは悲しいものがありましたが。ってか彼の墓にみんなが薔薇をたむけるのは、そういう意味? そういう意味なの? ってかエドモンとフェルナンの墓にたむけられたのも薔薇だったね(もういい)
・フェルナン:
ダークホース。まさかエドモンと、とは思いませんでした。なんで伯爵がフェルナンをフランツにたとえていたのかと思うと、その伏線のはりかたはさすがに恐ろしく。
フランツの遺書にあった“憎悪と愛は元は同じもの、だから誰も恨んではいけない”が、ここで活きてくる訳ですね。フランツがアルベールに対して、報われぬとしりながら無私の愛情を注ぎ、彼を助けるために死んだ♂♂であったにも関わらず、フェルナンはその180度逆をいっていた訳ですから。まさに二人は表裏一体。振られて逆上したフェルナンは(結婚の前の晩のぶっちょう面の意味も180度かわってしまいますな)、エドモンの最愛の女性を奪い、エドモン自身に濡れ衣を着せ、宇宙の果てに葬った。報われないがゆえの蛮行。絵に描いたような悪い♂♂。しかし彼は幸せなことに、最後は泣きながらエドモンと心中できたのでした……めでたし、めでたし。
ってめでたくないよ。めでたくないってば。
伯爵本人は、死ぬか、巌窟王という呪い(超自然)にのっとられるしかない運命だった訳で、どのみち滅びてしまうんだろうなと思っていました。が、アルベールのキスで呪いがとけて、フェルナンと心中ってなんだよ。なんなんだよ。「いったい誰が悪かったんですか」的なオチ?


こうしておさらいしてみると、やおいとかBL物でなく、あらためてホンモノ系だったと思います。だから普通の視聴者は時々「???」だったと思うし、私のような多少の知識のある視聴者にとっては、「うわあ・そんなお約束なー!」だったと思う。
もともと♂♂関係が話の基本構造を決定しているのに、客寄せ要素(萌え)としての♂♂、たとえばチラリズムみたいなものが、ほとんどなかった。むしろ「逸脱」(違和感といった方がわかりやすいでしょうか)が強調されていた。だから、ほのめかしや匂わせや甘ったるい愛の台詞を求めている人は肩すかしをくらったと思うし、♂♂がまったく駄目な人にはよく理解できない部分が多かったんじゃないかと。
いや、ドラマ(パンクオペラ?)としては良くできていました。面白かった。深夜アニメとしたら合格点以上です。


ところで巌窟王の正体って、なんでそんなみんな気にしてる(らしい)の?
ドプレーが図書館で教えてくれたじゃないですか。フランツが探ってきたとおり、千年生きた魔物ですよ。エドモンと契約した魔物ですよ。
原作ではエドモンが監獄にいれられていた時に、一緒に脱獄しようとした神父さんが教えてくれた隠し財産で復讐を始める訳ですが、この話ではその魔物の力で財産をうみだしていたんでしょ? だから契約がご破算になった時、シャンゼリゼ30番地は崩壊したんでしょ?


あ、そうだ。
最後にもう一言。
カヴァルカンティー、彼は最高の狂言回しでした。彼をみてるぶんには、♂♂がだめな人でも大丈夫ではないか。関智一の演技に瞠目せよ。最終回まで笑わせてもらいました。

*1:矢島晶子はやはりリリーナ様でした。

*2:いやー、アルベールがアルジェリアに戦争いかなくて良かったよ。この話でそれじゃ救いがない。そのかわりにモレルが行ってきたんでしょうね。まあ彼は軍人だからな。原作だとファラウン号は伯爵が買って、恩人であるモレルさん家にお返しするんですけどね。

*3:二人が恋愛結婚だって信じてたしね。実際は、アルベールの心の父は伯爵であり、心の母はフランツな訳なんですが。