悪くはないのです、ないのですが、吉武さんの本に比べて、あまりに長くて……!
元連載だったという性質上、重複部分は仕方ないと思うのですが、たびたびの脱線にちょっとイライラ……いや、同時代の女性作家に触れるのは、この本には大切なことですからいいんです。ですが正直、上巻の田中正造論のところで一度投げ出しそうになりました。「信子のお父さんの話はもうえーんじゃ!」みたいな。いや、言いたいことはわかるんですけども。
あと、下巻113ページから118ページまで、久生十蘭の、吉屋信子探訪インタビューが紹介されているんですが、この「絵入日記」という記事の筆者が“男性らしいが不詳”と片付けられているのがものすごく残念で。三一書房版全集の月報に収録されてたんだから知ってる人いただろう、なんで情報を寄せなかったのだ、いつもの文体、吉屋信子の描き方も実に久生らしい、名文なのにー!と悔しく思うことしきり。
さて、吉屋伝記代表作二作を片付けたので、あとは地道に駒尺さんの本を探そうと思います。見つかるかしら……。
id:sinden:20060424#1145859042で紹介されていたのを見てから気になっていて、やっと手にとったのですが。
実を言うと、裏表紙の紹介文を見て、後味の悪い話だと嫌だなあと、最後の方をパラパラめくって文章を確認してから、最初から読みなおしたのです(普段はそういう読み方は絶対しないんですが)。
大丈夫だった。
“いい話”でした。
小学四年生の純粋な少年の瞳を通して、非常に丁寧に、「悪意」「復讐」「罰」がときほぐされていきます。この主人公は(非常に限定的ですが)特殊能力の持ち主で、それは一見、推理物となじまないように思われがちですが、説明の積み重ねが巧みなため、非常にロジカルな、見事な推理小説にしあがっています。能力があるからこそ、それに頼って暴走するのでなく、自分が選べる道で一番良いものを真剣に模索する、非常に前向きなストーリーなので、推理物が苦手な人でも読めるかと。同じ作者の『子どもたちは夜と遊ぶ』の延長上にある作品らしいので、そっちも読んでみようと思いました。もちろんこれ単体で読めますけれども、匂わされているものが気になりますので(そこらへんもうまいと思う)。「人の心の闇」などと安易に書き飛ばす人たち、それに便乗して、建設的な意見も何ももたないのに、エセ正義感をふりかざす思考停止の人たちにも読ませたいものです。佳作。
というか、「人の心の闇」という単語を聞くたびに、正宗白鳥『人を殺したが…』を思い出してしまうんですよ。ああいう風に狂っていく歯車ってあると思うので。私も年をとってきたので、白鳥よりハイスミスの方が楽しかったりもするのですが(若い狭量な頃だったら、この本放り出してたかもしれないと思う事が時々あります/それともああいう独特なサスペンスに、一気に開眼したかな?)。
いや、上の文章でちょっとでもひっかかる部分がある方は、読んでみて損はないと思います、ほんと。