世界の果てで、呟いてみるひとり。

鳴原あきらの過去・現在・未来

いいもの みせて もらいました。


能年玲奈が新しい芸名で頑張っているという噂で、それは見ておかないと、思っていたのですが、年末の忙しさと年明けの体調不良で、とても映画館に行くどころじゃなかったのです。しかしせっかく地元の映画館でかかっているわけで、やっているうちに観よう、と。


呉と広島市江波を舞台にした戦争映画ですので、悲惨な場面はあります。
たとえば、頻繁な空襲の場面では、「あー、モロトフのパン籠……これ、うちにも落ちたんだよ……」と思いながら見ていました。
私の地元には海軍火薬廠があった上、上陸してそのまま北上すると首都東京に達する、本土侵攻上重要な地域だったため、何度も空襲をうけ、敗戦の夏には原爆を越えたといわれる大空襲を受けているのです。ちなみに、うちの庭にも焼夷弾が落ちて大穴があいていたそうで、落下位置が少しでもずれていたら、私が昭和に生まれ育った家(海軍官舎)は、消す人もないまま焼け落ちていたでしょう(その晩は防空壕でも危ないと判断し、家族全員が一キロほど走って、神社脇の田んぼにしゃがんで隠れていた)。ちなみにその後、日照の関係でその穴の上に増築したので、今の家もその落下位置の上に建っています。(なお、私の祖父は海軍技官だったので、呉にも行っているのですが、もう戦争末期で燃料が足りず、戦艦にのっても湾内をグルグル回っただけだったよ、と母に語ったそうです)。
防空壕の中だからといって必ずしも安全でもないこと、機銃掃射されるので、敵機がきたらすぐに身を低くして物陰にかくれる、もしくは溝に飛び込むこと、飛び散る爆弾の破片で死ぬこともあるから油断しない、不発弾と見せかけて時限式……それはすでに知っている知識だったりもするわけですが、そういう場面も丁寧に描いてあります。原爆ときのこ雲も。


ただ、見終えた後の感想は「いいものを見させてもらったなあ」で、「なるほど、これは、繰り返しみるひともいるだろうな」というものでした。
ヒロインのすずさんは、芯のしっかりした人で、絵が好きで賞をとれるレベルの巧さなのですが、人あたりが柔らかいのと、自分がどう見られているか頓着しないところがあるので、周囲からは割とボンヤリした娘さんと思われています。
これが、能年玲奈に、あってる。
彼女のファンは、とっくに観に行っていると思いますが、別録りとは思えないほどしっくりしているし、声優陣に負けていない。
幼い頃に助けた年上の男性にプロポーズされて、彼女は数え19歳で結婚して、呉へお嫁に行くのですが(彼女自身は知り合った時の記憶が曖昧。というかファンタジックな処理がなされている)、彼は彼女の本質を見抜いてお嫁さんにしたので、苦労をかけて申し訳ないという気持ちもあるものの、真面目に大事にしている。それなのに、彼女の昔の同級生があらわれて、軽口を叩きあっている場面をみると、同級生に譲ろうとしたりする。ので、すずさんが怒ります(当たり前だ)。しかしその情けない感じが、細谷佳正の声に、あってる。


すずさんが、長谷川町子ばりに、畑から見える海の絵を描いていて憲兵にとっつかまる場面があるのですが、後で「こんなボンヤリした子にスパイなんて無理だ」と嫁ぎ先の家族中から笑われます。たしかに彼女はスパイする気もなければスパイも無理でしょうが、彼女は後で右手を失うので、長谷川町子にはなれないのです。切ない。


仕事の後で疲れてるし、淡々とした映画だというので、途中で寝ちゃったりしたらどうしよう、と思ってたんですけども、途中で時計をみることもなく、2時間10分を過ごしました。


たぶん、当時を知っている人や、広島の地元の人達には、不満な描写もあるかと思うのですが(私は町が明るすぎると思いました。昭和三十年代までの日本の夜って、暗いよ……私が子どもの頃だって、町中でももっと星が見えましたよ)、これは観てきた人が「いい映画だから観に行きなよ」というでしょう。わかります。


これから海外でも公開されるそうですが、大東亜戦争を直接知らない世代が、すずさんの世代を描いた映画としては真面目につくられているものと思いますので、ひろくみてもらえたらいいと思います。


http://konosekai.jp/(公式サイト)