世界の果てで、呟いてみるひとり。

鳴原あきらの過去・現在・未来

オカワダアキナさんの『ハッシャバイ』を読みました

ハッシャバイ - ザネリ - BOOTH

(↑あらすじとか冒頭はこちらでごらんくださいね)

オカワダアキナさんの小説を読んでいると、自分の中にある何かがかき立てられる。共通項のある記憶が呼び起こされ、現在の自分の動作や行動が小説に置き換えられていくような錯覚に陥る。
オカワダ作品のモノローグは常に強靱で、通常ならあまり好みでないキャラクターであったとしても、「うん、わかる、うん、わかるよ」とうなずかされてしまう。
もちろん『蝸牛関係』のように、もう最初から主人公の魅力にがっちり心を掴まれてしまって「だめじゃないよ、そういうこともあるよ」と共感の嵐の中で読むことも多い。浅草で観光用の人力車をひく若者と、なんの体力もない女の私に、共通点も同じ体験もあるはずがないのに。

新刊『ハッシャバイ』を読んだ。
実はちょっと構えていた。以前書かれていた短編「近眼犬」の、自分がダメな自覚の薄いキャラクターが主人公であったら、もしかして九万字を読み切れないのではないかと不安になっていた。
ところが今回の主人公・祐樹くんは、どちらかというと知的で端正な若者だった。さっぱりしているというより、ほんのりよそよそしい。ダメ要素はないわけではないけれども、「えっ、いい子じゃん?」みたいな。なので後半、よりくんと再会していろいろなし崩しになっていくあたりからやっと親しみがもてるようになってきたのがとても不思議だった(よりくんがどっちかというと今回のダメ担当だからかもしれない。残念なイケメン的な)。短編「バイ・ミー」の主人公が、最初は強烈すぎて「えっ?」と思いながら読んでいたにもかかわらず、「しるかよ」と言う、たった四文字の台詞で私を陥落させてしまい、「そうだよね、そうだよね」というラストまでたどり着いたのを思い出す。ベクトルは逆だけど株が上がることはかわらない。
とはいえ読みながら、○○年前の自分の大学時代をずいぶん思い出した。もちろんその頃はSNSなんてないし、なんなら漫画喫茶だってなかったから、学祭の後、宮下公園まで仮装で練り歩いたのち、終電もなくなった渋谷での夜明かしはダンキンドーナツに居座るしかなく、始発までどうやって寝ないで過ごすかが問われた(ウトウトすると追い出される)。カトレアという喫茶店が大学の近くにあって、先輩達は夜っぴてそこでサークル会誌の原稿を書いたり版下を起こしていたらしいのだが、私はそこで夜明かしをしたことはない。サークル員の誰かの家に集まって、オフセット誌の版下をつくったことはあるけれども。そういうごろっちゃらはほんのり、拙作『美少年興信所』の知恵蔵叔父さんの大学時代にまぎれこませたりしているのだが、あの頃の記憶をそのまま書いても小説にはなるまいと思う。
しかし「オカワダさんが書く学生でも(だいぶ下の世代のはずだけど)、まだこんな風俗が残ってるの?」という気持ちはわいた。学生はやっぱり学生ってことか、みたいな……。

今回の「わかる~」は、むしろ、元彼くんに対する態度であるかもしれない。こういうヤバめの子に夢中になる気持ちはわかるかな的な。貢いじゃったり結婚したいと思ってしまう気持ちはわかるかな、みたいな。レインボーリールでいくら頑張ってもそれはちょっと難しいかなという微笑ましさもあったりして。そして、「なんでとっとと早人さんにしないんだ?」とも思わせない。恋愛って勢いとかパッションが必要だからね……いい人だから好きになるかというと別だもんな……。

主筋は友達サークルをつくる話なわけで、お互いがゆるやかにつながっている感じは、読んでいてとても楽しい。オカワダ作品は正しさで人を裁かないけれど、祐樹くんは「正しさなんてどうでもいい」派ではなくて、すこしずつバランスをとっているのが好ましい。私は割と正しくありたい系であったりするけれども、実はすごくダメだという自覚はもちろんあるので、そのバランスがうらやましくもある。

よりくんといつまで友達でいられるか、それこそ永遠でないかもしれないけれど、学生時代の思い出はわりと永遠に残ったりするので、ずっと一緒でなくてもいいんだよ、と年寄りは言いたい。
けど、そんなことを言われても若者は困るよな……。


以前、オカワダさんから拙作のコメントをいただいた時、いちばん驚いたのは、ヒロインが変な女だと言われたことではなく(私の分身的なキャラだからまあまあ変ではある)、「みらいさんはモテるだろう」的なお言葉をいただいたことで、「えっ、変なのになんでモテるの?」と思ったのだけれども、考えたら作中でも一応モテてはいるのだった。
自分で書きながらよくわかっていなかった。

たぶんオカワダさんレベルでも、書きながら不安で書き上がっても不安なのだろうと思ったりする。こんなとりとめのない感想でも、なんらか足しになったらと思います。

 

 

ああっ、拍手ありがとうございます。

オフィスが吹っ飛んじゃったりしていてPCはあいかわらずひどい状態です。明日には復旧できていますように。