世界の果てで、呟いてみるひとり。

鳴原あきらの過去・現在・未来

8月がくるたびに。


新聞を開いたら、中井英夫の戦中日記『彼方より』の完全版が河出から出るらしいですね。そういえばもう8月だったのでした。表紙はあの美青年時代の中井の写真。戦中ずっと東京にいて、死体の一つもみなかった、と宣言する中井の日記ですから、ただその悲惨さを描いて、反戦を訴える記録を期待する向きには肩すかしかもしれませんが、私にとっては一人の文学青年の記録としてリアルです。
あとですね、特攻におもむく兵隊さんからいきなり「あなたの写真を一枚ください」と言われたエピソードやら、きれいな通信兵との妄想小説とか、後ろに寝ている上級兵から手をのばされたりするのがままある事とか、ええ、そういう話がお好きな方はぜひどうぞっていうか?(誘導の仕方がまちがっちょる!)
いやね、久生十蘭の従軍日記が発行される可能性がでてきたらしいんですが、戦時中の女遊びまで、夫人に清書させていたらしいんですよ。ものすごいイメージダウン! まあ昔の男だし、かなり横柄なところがあったのも話にきいてはいますが……だったら中井の「軍隊なんて大嫌いだけど、意外に(自分モテモテで)楽しいところ?」な脳天気さの方がまだマシかも、と思ったりした訳なんです。間違ってます?*1

*1:「じゃあ、田中貞夫というものがありながら、ヴェラに堕胎をさせた中井はひどくないのか?」というツッコミがきそうな気もしますが、そういう話になると、澁澤龍彦が、奥さんだった矢川澄子にしたことの方がよほど許せない、と思うのが私です。