世界の果てで、呟いてみるひとり。

鳴原あきらの過去・現在・未来

オカワダさんから、またも素敵な作品感想を頂戴しました!


4月1日開催の即売会【Text Revolution 5(テキレボ5)】ですが、自分の委託スペースの他に、オカワダアキナさんの【ザネリ】(スペース:D-10)でおこなわれる「おじコレ」にて、『美少年興信所』2種を委託で頒布していただけることになっておりまして。
「おじコレ」とは、伯父さん・叔父さんが重要な役どころをになっている本を集める企画で、私の本も該当するのでは、と推薦され、自分の委託作品『それから』以外の本でも、テキレボに参加できることになりました。


http://uncle-collection.tumblr.com/ (「おじコレ」サイト)
https://twitter.com/ojicolle (「おじコレ」公式ツイッター


それでですね、この企画の目玉に、主催のオカワダさんに「おじレビュー」を書いていただけるというのがありまして、それを楽しみに挙手した、というのもあるのですが、私の図々しい期待以上のレビューをいただきましたので、以下、貼り付けておきます。

http://uncle-collection.tumblr.com/post/156487963622/


〈おじレビュー〉


 理不尽や暴力に立ち向かうすべ
 よるべない子どもたちは、知性と恋と"叔父さん"を武器にする!


 絡み合う人間関係と次々明かされる真実。夢中になって読みました。ネタバレも避けたいですしあまり野暮なことを書きたくなくて「おすすめです!」でおしまいにしたくなるのですが、さすがに芸がないので精いっぱい言葉を尽くしたい。たぶんそれだって、わたしがこの物語から得たことでしょう。


 鳴原さんの作品は、登場人物の聡明さが魅力です。ちょっとしたせりふや洞察にドキリとします。いや、ギョッとするほどです。心のどこかでぼんやりしていた何かをするりと差し出されてしまう。
 今回のテキレボアンソロ( http://text-revolutions.com/event/archives/5511 )でも、「安道の気の遣い方が好きだったかというと――あれは気遣いというより、自分の意思の通し方がうまいんだと思う。」という箇所にハッとなった方も多いのではないでしょうか。詳細は本文を読んでいただくとして、"意思の通し方がうまい"誰かに気づいたことや、あるいは自分がそのように振る舞ったこと――駆け引きというよりもっと切実な情や癖でしょう――を思い出し、揺さぶられます。身に覚えがあるけれど口にしてこなかった、誰とも分かち合いたくなかった何か。見過ごしがちな違和感/痛みを、brightな登場人物たちが洒落たせりふや語りのなかで示すさまは、快感(と一抹の畏れがないまぜ)です。
 本作は興信所が舞台のミステリで、探偵もの。理知的なキャラクターには、ミステリは極上の舞台でしょう。美青年と美少年とおじさんたちが活躍しますが、聡明なかれらによる謎ときがとにかく読んでいて気持ちいい。BLの色っぽいシーンも楽しめます。


 主人公・巧駿介は複雑な生い立ちの中学生。父親も母親もあらかじめ失われており、大人たちの身勝手に振り回されてばかりです。
 彼のお相手・鷹臣は19歳、文学部の大学生。おもに鷹臣の知識と教養で事件は解きほぐされてゆきます。生きるために身につけなければならなかった知性とでもいうような、孤独と憂いを抱えた青年。一見おとなしいようで、若者らしい戸惑いや一途さが魅力的で、駿介が惹かれるのもわかります。
 鷹臣は高校時代のある事件が元で親元を離れ、叔父・門馬知恵蔵のところで暮らしています。大学に通いつつ、知恵蔵の勤める興信所の手伝いをする日々。「いささか物憂い」「物言いはあくまで柔らかい」「慎ましやかな余韻」の美声で、興信所の留守番電話メッセージを担っています。
 ある日、知恵蔵の留守中に三人の依頼人がやってきます。別々の案件ですが、どうやら探している人物はみな同じ。少年に添い寝をさせるという怪しげな風俗店「眠れる美少年の家」にいるという少年・巧駿介のゆくえをめぐって、さまざまな大人たちの欲望と利己がうずまいてゆき――。


 四話それぞれの事件が物語全体の起承転結になっていて、ワクワクしながら読みました。スタイリッシュな語り口に引っ張られ、複雑な人物関係もすっと入ってきます。小道具となっている文学作品にもニヤリ。
 事件の中で、駿介と鷹臣は距離を縮めてゆきます。14歳の駿介にとって鷹臣は大人に映りますが、19歳はまだ子どもでしょう。うまく甘えたり泣いたりができないまま青年になってしまった感じ。駿介もそうで、大人びたところと少々の危なっかしさが同居しています。


 鷹臣の叔父・知恵蔵は、ふたりの無鉄砲にひやひやしつつ、真正面から向き合ってゆきます。
 知恵蔵叔父さんは、本作のなかではもっとも「ふつうのひと」かもしれません。40代半ば、うさんくさい風貌。不在の所長にかわって満潮音興信所を預かっています。「私の仕事は、パチンコをやっているように見えて、それが尾行であったりするんだ」など、少々いいかげん。でもユーモアやあたたかみがあり、子どもたちを守ろうとするまっとうな正義感があります。
 傷ついた鷹臣を興信所で下宿させることを決めたシーンや、駿介・鷹臣それぞれから思いをぶつけられるシーンは大人として本当に格好いい。また、駿介と親子を演じて尾行をするシーンがチャーミングです。
 単にいいおじさんで終わらないのは、彼もまた知性と正義では制御しきれない"片思い"を抱えているところ。これが物語全体のキーになっており、唸ります(二巻では色っぽいシーンもあります)。


 生きるために、駿介も鷹臣も年齢にそぐわない知識や処世術で自分を守ってきたわけですが、孤独は深いままでした。そんななか、知恵蔵叔父さんが興信所の手伝いという場所や役割を差し出してあげ、誠実な言葉で向き合います。序盤から知恵蔵叔父さんはあっさり捕まってしまいますし、子どもたちにも出し抜かれがち。だからこそ、暴力や理不尽だらけの世界を生き抜くための武器は、正義に裏打ちされた言葉なのだと示してあげられたのではないかなあと感じました。名探偵ではない知恵蔵叔父さんが、心と言葉で子どもたちをときほぐし、自分もまた"片思い"と対決するということ。
 そうして、駿介と鷹臣は互いに手を取り合い、彼らなりのやり方で大人へ立ち向かいます。力のない子どもたちが、知性と恋と理解者を得て、居場所を勝ち取る。言葉と声をキーとしたドラマに胸が熱くなりました。


 長々と書き連ねましたが、予備知識や前情報なく、とにかく物語の世界に飛び込んで楽しむのがよいと思います。人間ドラマと謎とき要素がつながりあい、散りばめられた要素が見事に収束するのが快感です。
 また年下攻めの魅力もそこかしこに詰まっていて、洒落たやり取りにキャッ!となること請け合いです(「変声期も終わっていない少年の、かすれ声」でプロポーズ!)。一気読みエンターテイメントでした。


(オカワダアキナ)


理知的で完璧なレビュー……!
ありがとうございます!
そして、ご本人が「怪文書」とのたまうツイッター上の感想につきましては、以下にすでに収録済みです(微妙にネタバレがあります)が、最高の褒め言葉でありがたかったです。


https://togetter.com/li/970598


この『美少年興信所』総集編の二冊は、18禁指定ではありませんので、テキレボのお買い物代行サービス(http://text-revolutions.com/event/daikouservice)でも、注文可能です(締め切りは3/12ですが、リストが長い&前日までに申し込んでおかないと厳しい!)です。
複数サークルさんの本の通販を希望される方は、手数料がかかりますけれども、ぜひ、お試しください。


おじコレ以外にも「疑似家族ナビ」という企画がありまして、そちらにも申し込み予定だったりします。
(委託ですので、オカワダさんのご了承をとっております)


あと、ナギノさんにですね、「テキレボで楽しみな本」の中で『それから』を取り上げてもらいました。

http://bgkaisei.blog.fc2.com/blog-entry-227.html


「それから」(https://plag.me/p/textrevo05/2799) 恋人と時限爆弾(ブース番号:委託-02)


アラブBLアンソロ買い逃し勢やけど、(テキレボ)アンソロ読んでその後が気になりすぎて。タイトルからして「それから」やもんねえ……。


ナギノさんは、テキレボのアンソロの感想を一番はやく書いてくださっただけでなく、タイトルを「癒えない言葉」っていってくださったんですよね。
本当にありがたいことです。


読んで、楽しんでいただけたら、嬉しいです。