世界の果てで、呟いてみるひとり。

鳴原あきらの過去・現在・未来

歴史の先生が書いたインタビュー+伝記


シモ・ヘイヘの伝記です。
シモ・ヘイヘ(ハユハ)は、フィンランドソ連に突然侵攻されたため、生家を守るために戦場にでた民間人ですが、もともと優れた猟師であった上に、民間防衛隊での訓練を積んでいたため、狙撃手として選ばれ、大活躍してしまう羽目に陥った人です。
俗にいわれる「冬戦争」がなければ、生涯ひとりも人を殺すことなどなかったはずなのに、「五百人以上の命を奪ったことについてどう思いますか」と訊いた人もいたとか。無神経すぎるよ。職業軍人にだってそんな質問しないであろ?
彼は上官に命令されたことしか、しなかったのですよ? 
お兄さんたちが第一次世界大戦で亡くなっていて、家を守るのは自分の仕事だったわけですよ。そこへソ連が、物量作戦で攻めてきた。で、独立国になったばっかりのフィンランドの国防は、職業軍人だけでは足りなかったのです。
ソ連兵に左顎を撃たれて死にかけ、目覚めた時には戦争が終わっていたのですが、結局、ヘイヘの家は、講和時にソ連にとられてしまい、国境の1.5キロ先になってしまったため、彼は一生、生家に帰れなかった。遺言で「もし返還されたら一族はあそこに住んでくれ」と言い残したというくだりは、「悲願だったんだな、国のために戦ったのになんでこんな目に、っていいたくてもいえなかったんだろうな、ひどい話だ」と思わず呟いてしまいましたよ。


戦記物、狙撃手物として期待して読むな、というレビューがありますが、無口な市井の人がその能力を発揮して自分のすべき事をしたこと、しかし理不尽に対して声をあげることができなかったという記録として読むのが、よいと思います。