世界の果てで、呟いてみるひとり。

鳴原あきらの過去・現在・未来

翻訳って自分のキャパシティーが丸わかりになるんですよ

昨日こちらに貼り付けた オカワダアキナさんの「さなぎ」の日本語訳チャレンジですけども。

日本語から日本語への翻訳 オカワダアキナ『さなぎ』 - 世界の果てで、呟いてみるひとり。

オカワダさんに寄せつつ、自分の文章で書くにはどうしたらいいのかは、ちょっと考えながら書きました。pixivから一太郎にコピペして、段落ごとに直していっただけですが、「あー難しいわー、面白くなんないわー」と思いましたね……自分の読解力とか文章力とか、もろに出ますね、これは。

 

翻訳は本来、原文からかけ離れてはいけないものですが、オカワダさんのモノローグ的な語り口を再現するのは無理な話だと、最初からわかっていました。
(ちょっと真似して文体がよくなるものなら、とっくにやってますよー!)
なのでまず、地の文の再現は放棄して、会話と思われる部分を、できるだけ「」の中に放り込みました。(これは雨伽詩音さんもやってますね オカワダアキナ原作/雨伽詩音翻訳「さなぎ」 - 広寒宮)段落内の文章の順番を変え、自分に書けないところはとばし、反対に自分の解釈を投げ込んで一部を補って、自分が読み取った内容をできるだけ維持することだけにつとめました。

 

なお、台詞を増やすためには、登場人物の背景を考えないといけません。
主人公の「おれ」はクレバーな十代の少年です。非常に大人っぽい思考の持ち主ですが、おそらく小学校高学年ぐらい。歩道橋を渡って手すりの匂いを感じるというのは、手すりに触ったことがあると思われ、それを「懐かしい」と思えるぐらいの年齢。母親が重いと思う荷物をやはり重いと思ってしまうのは、まだ小さくて非力だからです。

学校に行けない理由は家庭環境のせいだけではなく、この頭の良さや敏感さのせいかもしれません。一人称を「俺」になおしてしまいましたが、オレではちょっとがさつすぎますし、私の地の文に埋没させないようにするには「俺」かなと。少し古い話で、彼の回想である可能性もあるので(ジモティーという単語があるので、十年以上前の話ではないわけですが)。

主人公の祖父は、あまり年老いた感じがしません。孫が小学生では、そこまで高齢とも思えず(ずいぶん前に亡くなったのが祖父母でなく曾祖母であることに注意)。仕事をしている描写がありませんが、不労所得的なものがあって、セミリタイアしているのかも。ネカマという単語を知らないらしいので、インターネッツ老人会の住人ではありません。スマホアプリも必要なので入れているだけという感じ。レコードのかけ方は知っているので(孫に自然に教えているということはレコードで育った世代でしょう)、若すぎることもない。生活にやや余裕のある、下世話なことに興味のない(むしろ女性に対して優しい)、品のいい男性と判断して、口調は柔らかめにしました。

それに対して、主人公の母親は年齢不詳です。ずいぶんとくたびれています。それから、会話の内容やタイミングが、微妙におかしい。(「ネカマじゃん」ってもっと早いタイミングで言うはず)。彼女が挙動不審なのは、夫のせいだと思われます。すくなくとも不動産屋で働けて、免許の更新ができているので、普通の社会生活を送れる人の筈です。

そんな母親の疲れを息子は察しているので、刺激することはありません。たぶん昼夜が逆転していて、朝ご飯は食べなかったりもしますが、親のおつかいについていく優しい息子ですね。

 

主人公が直感的に悟ることがいくつもありますが、それを別の言葉で言い換えるとニュアンスが変わってきます。そもそもオカワダ話法を自分はちゃんと読みこなせているのかがわかりません。純文学はぜんぶわかる必要のないものというか、主人公の感じ方が伝わったら勝ちだろうと思っているので、説明しすぎてはいけません。いかにも純文学的な「舌が負けたらのどに刺さる」を訳し落としたのは、自分の語彙で再現できないからですが、この感覚は大きな骨のある魚を食べた人には、わかりますよね……最後の舌の描写にかかってくるので、本当は訳さないといけないのですが、ごまかしました。

 

オカワダさんは時々トリックストーリーを書いて、それがびっくりするほど自然なのですが、この話もそういう要素が多めで、それをオカワダさんの謎の提出順に書いて綺麗におさまるか心配だったのですが、元がしっかりしているので大丈夫でした。

 

オカワダさんには、https://twitter.com/Okwdznr/status/1267082074155933700

序盤の「二千円で手を打った」から「つまりそういうことなんだ」で締めるところ、ミカンの木云々のところで「無事」と言い表してくださったところなどがとても鳴原さんワールドで、かっこよくてうれしかったです。ありがとうございます〜

の三カ所を褒めていただきましたが、このおつかいは2000円ではあきらかに足が出るので、それで母親が折り合ったという意味で書きました。「つまりそういうことなんだ」はいかにも翻訳っぽい落とし方ですが、主人公の俺が「わかっている」ことが読者に伝わればいいのだろうと思ってこれにしました。ミカンの木やさなぎの解釈は他の人でも割れてましたが(そこを純文学的に飛躍させていたのがなむあひさんかな)、基本的に優しい子なので荒廃を望んではいないかなと……。

 

なんにしても勉強になりました。ありがとうございました。

 

高梨來さんがこんなコメントを付けてくださってましたよ(私以外のも含めてですけど)