世界の果てで、呟いてみるひとり。

鳴原あきらの過去・現在・未来

思うところあって、ぼちぼちホームズを読み返しています


知人がクイア・リーディングをやってまして、世紀末作家であったコナン・ドイルが、いかに同性愛のテキストを織り込んでいるか、読解しているようです。
いわれてみれば、確かにこれは、という箇所も多く、さっと読んだだけでも、二重三重の読みができて、面白いのですね。


まあ、それはそれとして。


やっと後半戦に突入し、「美しき自転車乗り(延原訳)」まで、さしかかったのですが、この話、特になんらかの文法に従って読まなくても、かなりすごい話ですよね?
美人の家庭教師(婚約者あり)が、遺産狙いの二人の男に目をつけられていて、片方の男に拉致されて無理矢理結婚させられてしまうという、その筋立てだけでも物すごいわけですが、「や、二人(暴漢と家庭教師)は結婚してしまったぞ」というワトスンの台詞には、いろんな意味で衝撃が走ります。


その昔、強制的に結婚、といったら、ほぼレイプと同義です。


たとえば、夢野久作の「死後の恋」では、こんな風に使われています。

彼女は、すこし後れて森に這入ったために生け捕りにされたものと見えます。そうして、その肉体は明らかに「強制的の結婚」によって蹂躙されていることが、その唇を隈取っている猿轡の瘢痕でも察しられるのでした。のみならず、その両親の慈愛の賜である結婚費用……三十幾粒の宝石は、赤軍がよく持っている口径の大きい猟銃を使ったらしく、空包に籠めて、その下腹部に撃ち込んであるのでした。


http://www.aozora.gr.jp/cards/000096/files/2380_13349.html


明らかに強姦殺人ですが、こんなむごたらしい状況にまで「結婚」という言葉が使われるわけです。


ところで、美しき自転車乗りこと、美人家庭教師は、無事に遺産相続し、最先端の仕事をしている婚約者と結婚して、幸せに暮らしているのです。そして犯人二人の方は、誘拐と暴行の罪で裁判にかけられ、前者は七年の刑に、後者は十年の刑になった、というのです。


えらい懐の広い話ですね!


だってね。


乱歩に『黒蜥蜴』って話がありますが。
あれって、名家のお嬢さんが誘拐されると、傷がつくからって、明智さん、身代わりの女の子を用意して、その代役の子を誘拐させてるんですよ?
ひどい話だよなー!
代役女性の貞操はどうでもいいのかっていう。


なんにもされてなくても、結婚にさしさわりがーっていう話の群れの中で、「美しき自転車乗り」って、100年以上前のお話とは思えない、リベラルなエンディングですよね!


「いや、それは違うよ、これはこう読むんだよ」というご意見の方、その読み方を教えていただけると嬉しいです。


ホームズ、面白いわ、はい。